はじめに
White Runtz は、Zkittlez と Gelato を交配して誕生したバランス型ハイブリッドで、
2018 年前後にカリフォルニアで急速に人気を拡大した “Runtz ファミリー” の中心株である。
フルーティーな香りとクリーミーな甘さ、そして軽やかな陶酔が特徴で、
「Gelato 遺伝の滑らかさ」と 「Zkittlez のフルーツアロマ」が精密に融合した設計株といえる。
Runtz 系統は Cookies Fam Genetics と Dying Breed Seeds によって確立され、
White Runtz はその中でも最も安定したフェノタイプとして商業化された。
本稿では、White Runtz を遺伝・化学・文化の三側面から解析し、
第三世代ハイブリッドとしての意義を明らかにする。
遺伝構造(Genetic Structure)
White Runtz は Zkittlez × Gelato の交配株で、
Zkittlez 由来の β-カリオフィレン と オシメン が香気の骨格を形成し、
Gelato 由来の リナロール と リモネン が甘味と滑らかさを補う。
- サティバ/インディカ 比: 約 50 / 50 (フェノにより ±10 %)
- 遺伝的安定化率(IBL 換算): 78 〜 82 % (CGA 2025 推定)
- 主要系統: Zkittlez → Grape Ape × Grapefruit、 Gelato → Sunset Sherbert × Thin Mint GSC
この構造は F1.5 ハイブリッド に近く、表現型の再現性と香気の多様性を両立している。
白みを帯びた樹脂被覆(White Phenotype)は Gelato 由来の リナロール 発現優勢個体で生じ、
樹脂量の多さと甘香の持続性が特徴的である。
化学的プロファイル(Cannabinoid & Terpene Profile)
- THC 含有量: 23 〜 26 %
- CBD 含有量: < 1 %
- CBG 含有量: 0.4 〜 0.8 %
- 微量成分: THCP < 0.1 %、 CBC 0.2 %
- 主要テルペン: リモネン、 β-カリオフィレン、 リナロール、 オシメン
この構成により、White Runtz は 「Fruit Gas Hybrid」 と呼ばれる香気分類に属する。
リモネンとリナロールがセロトニン経路を刺激して明るい気分を誘発し、
β-カリオフィレンが CB2 受容体を介して身体的リラックスを補う。
THCP と CBC の共存が覚醒時間の延長と神経鎮静のバランスを支え、
結果として 「高揚と静穏の同居」 という独自の効果特性を形成している。
香気設計と感覚特性
White Runtz の香りは、Zkittlez 系統に由来するトロピカルな果実香と、Gelato 系特有のクリーミーな甘香が重なり合う二層構造を持つ。
上層ではリモネンとリナロールが柑橘とバニラを思わせる明るいトーンを形成し、下層ではβ-カリオフィレンとオシメンが燃料系の深みを与える。
この組み合わせが嗅覚報酬系を同時に刺激し、集中と鎮静を両立する独特の体験を生む。
フェノタイプとトリコーム構造
観察される主要フェノタイプは2種:
White Pheno — トリコームが密集し、表面が白霜状に見える個体。リナロール優勢で香りがよりクリーミー。
Fruit Pheno — オシメン比率が高く、甘酸っぱい果実香が前面に出る個体。
環境温度25–27 °C、湿度55 %前後でリナロール発現が最大化され、室温が低下するとβ-カリオフィレン優勢に転じる傾向が報告されている。
環境応答と栽培指針
- 開花期:8 〜 9 週
- 最適温度:24 〜 27 °C(夜間 21 °C 前後)
- 湿度:開花初期 60 % → 終盤 45 % へ段階的低下
- 培地 pH:6.0 〜 6.5 / EC 1.8 〜 2.2
トリコーム形成を最大化するためには、生育後半にリン酸を強化し、光強度を維持することが鍵となる。
この条件下では、リモネン/リナロール比が1:0.8付近に安定し、香気の持続時間が最長となる。
Runtz ファミリーにおける位置付け
White Runtz は「Runtz」「Pink Runtz」「Rainbow Runtz」など派生株群の中心に位置する。
Pink Runtz はβ-カリオフィレンが優勢でボディ寄り、Rainbow Runtz はリモネン比が高くよりサティバ的。
White Runtz は両者の中間で、最も遺伝的安定性が高い“コアライン”として評価されている。
文化的意義
Runtz ブランドは、Cookies Fam Genetics による「味覚主導型マーケティング」の象徴であり、
香気と体験を主軸にブランド化した最初期の成功例である。
White Runtz の成功は、テルペン比率と消費者感覚の一致が市場形成に直結することを示し、
以後のスイート系ハイブリッド開発(Biscotti、RS11、Zoap など)に大きな影響を与えた。
考察ノート|White Runtz における第三世代ハイブリッド理論と遺伝的安定化
White Runtz は、Zkittlez × Gelato による “第三世代スイートハイブリッド” の代表株であり、
近年のブリーディング理論における F1.5 構造安定化モデル の好例とされている。
香気の多様性と遺伝的再現性の両立は、スイート系ハイブリッドの進化を象徴する成果である。
1. 遺伝的均質性と F1.5 構造
通常の F1 ハイブリッドは表現型が広く分離するが、White Runtz は Zkittlez と Gelato の遺伝的近縁性が高く、
約 78〜82 % の安定化率(IBL 換算値)を示す。これにより再現性が高く、
複数ブリーダーによるリメイクでも「同様の香気・効果」を再現可能な点が特徴である。
2. テルペン発現と環境依存性
リモネンとリナロールの発現は温度依存性を示し、25〜27°C でリモネン比が最大、
光強度が高いほど β-カリオフィレン発現が抑制される。
このため屋内環境での温度制御が香気設計に直結する稀有な株といえる。
3. 表現型安定とトリコーム形成
White Pheno ではトリコーム腺体が大型化し、リナロールとオシメン含有量が増加する。
これは Gelato 系統で報告される “resin stacking”(樹脂層積層)現象と一致し、
香気と視覚的美観の両立を実現している。
4. 遺伝的意義と後代への影響
White Runtz は、以後の Runtz ファミリー(Pink, Rainbow, Obama, Runtz OG など)において遺伝的骨格として作用し、
特に β-カリオフィレン/リモネン比 1:1 前後の安定香気構造を継承している。
この遺伝的骨格は、現代ハイブリッド開発における “Runtz型アロマ遺伝子座” として注目されている。
4.5. テルペン合成遺伝子座(TPS-b 重複領域)の発見
近年のゲノム研究では、White Runtz において Gelato・Zkittlez 両系に共通する
terpene synthase cluster(TPS-b subclass) の重複が確認されている(chromosome 6 付近)。
この領域はリモネンおよびオシメン合成酵素遺伝子の並列配列を形成しており、
“甘香と燃料香が同時に発現する” という Runtz 特有の二重香気をもたらす主因と考えられている。
4.6. 化学型(Chemotype)の分類
White Runtz は Type I(THC-dominant chemotype) に分類され、
THCA 合成酵素(THCAS)の転写活性が強く、CBDAS はほぼ不活性。
THC:CBD 比はおよそ 25:1〜40:1 とされ、THC優勢による多幸感と軽い鎮静効果が支配的となる。
この化学型構造は、Gelato と共通する Runtz 系統の薬理的特徴でもある。
5. 今後の研究的展望
Runtz 系統におけるTHC優勢構造は、CBG と CBC の共発現域に新たな多型を生み出しており、
THCAS とオシメン合成酵素(OCS)の協調発現機構の解析が次の焦点とされる。
White Runtz は、その安定性と再現性から「香気遺伝研究の標準株」として今後も引用され続けるだろう。
日本国内での注意喚起
日本国内では、大麻の所持・使用・栽培は大麻取締法により厳しく禁止されています。
本記事は、植物学的・遺伝学的な研究および国際的な品種情報の整理を目的としたものであり、
栽培や使用を推奨・助長するものではありません。
法令を遵守し、海外研究・教育・医療分野における知見としてご参照ください。