- はじめに
- 基本情報(Complete Profile)
- 遺伝構造(Genetic Structure)
- 香りとテルペン構造(Aroma & Terpene Structure)
- 化学構造と体感(Cannabinoid × Terpene × VSC Interaction)
- 効果と体験(Effects & User Experience)
- 栽培特性(Cultivation Characteristics)
- 初心者向けまとめ:どれを選べばいい?
- 考察ノート(Scientific Research Notes)
- 総合まとめ(Final Summary)
- 最後に(Closing Thoughts)
- 注意喚起(日本国内向けのご案内)
はじめに
Chem 91(Chemdog 91) は、1990年代アメリカにおいてモダン大麻文化を形成した“源流株”として扱われる伝説的ハイブリッドである。
今日の OG Kush / Sour Diesel / GMO / Cookies といった主要ラインの成立に関与した可能性が高く、香気・体感・遺伝的影響のすべてで特異な位置づけを持つ。
Chem 91 の最大の特徴は、THC や一般的なテルペン構造だけでは説明できないケミカル臭(Chemical Fuel Aroma)にある。
この刺激的な香気には、2020年代以降注目される VSC(揮発性硫黄化合物)が関与していると考えられており、従来のテルペン主体のアロマとは異なる化学的個性を示す。
本稿では、Chem 91 が誕生した「1991年の Dead Tour」に端を発する伝承的背景から、最新の化学・遺伝学的知見まで、研究者視点で総合的に整理する。
本記事で扱う軸は以下の通りである:
- 起源:Dead Tour 1991 から始まる Chem Line の成立
- 科学:テルペンだけでは説明できない“ケミ臭”の構造
- 影響:現代ハイブリッドに与えた遺伝的・文化的インパクト
Chem 91 が「現代カンナビスの母体」と呼ばれる理由を、歴史・科学・文化の三方向から解明していく。
基本情報(Complete Profile)
- 品種名: Chem 91(Chemdog 91)
- タイプ: ハイブリッド(Indica:Sativa ≒ 40:60)
※「刺激的覚醒 × 重い沈静」を併せ持つ“ニュートラル・ケミ系”に分類される。 - 起源: 1991年(Dead Tour:Massachusetts)
└ 最初期の “Chem Dog Seeds” ロットから選抜された表現型とされる。 - 遺伝(出自): 不明 × 不明(未確定)
複数の仮説が存在するものの、2025年時点で親株は科学的に確定していない。 - THC: 20〜27%(平均 22–24%)
- CBD: 0.5%未満
- CBG: 0.3〜0.9%
- 主要テルペン: β-カリオフィレン、ミルセン、リモネン、フムレン、β-ピネン
※主要香気の“核”はテルペンよりも VSC が形成している可能性がある。 - フレーバー: ケミカル、ガソリン、スカンク、柑橘ピール、湿った土
- 特徴的効果: 刺激的覚醒 → 深い沈静へ移行する二相性
└ 初期の鋭い立ち上がりは Chem 系の象徴。 - 栽培難易度: 中級〜上級(ストレッチ強・節間広め)
- 系統的位置づけ:
OG / Diesel / GMO / Cookies の“源流株(Foundational Lineage)”
遺伝構造(Genetic Structure)
Chemdog 91(Chem 91) は、モダン大麻の中でも特異な “出自不明の源流株(Foundational Unknown)” である。
1991年に入手された種子“Chem Dog Seeds”から生まれたとされるが、親株は公式には特定されていない。
しかし、この曖昧性にもかかわらず Chem 91 は、OG Kush・Sour Diesel・GMO・Cookies など多数の主要ラインに影響した可能性が高いと評価されている。
■ Chem Line:3兄弟フェノの成立
同じ種ロットから、以下の3つの表現型が選抜されたとされる:
- Chem 91:最もバランス型で“基準株”とされる。
- Chem D:刺激・VSCが最も強い攻撃的ガス。
- Chem 4:Earthy × Pine 寄りで OG 的構造が強い。
■ 親株に関する有力仮説(※未確定)
科学的には決着していないが、2025年時点で議論される仮説は以下:
- Thai × Nepalese(刺激的覚醒 × 土 × 柑橘の共通点)
- Skunk × Kush(スカンク臭・重いボディ感の一致)
- 原初Diesel系(ガス × 柑橘の整合性が高い)
ただし、いずれも決定的な証拠はなく、Chem 91 は科学的にも“最も謎の多い源流遺伝”として扱われている。
■ Chem 91 が持つコア遺伝特性
- 化学的ガス × スパイス × 土という複合アロマ
- 刺激 → 沈静へ移行する二相性体験
- VSC が関与する“強い香気”
- 現代ハイブリッドの基礎構造を形成したライン
未解明でありながら、文化的・遺伝的には“最重要遺伝子群”として評価される。これが Chem 91 の最大の特徴である。
香りとテルペン構造(Aroma & Terpene Structure)
Chemdawg(Chem 系)は、現代大麻の中でも最も特異な「Chemical / Fuel / Gas」を軸とする香気プロファイルを持つ。
この香気は単純に“ガス系”と呼ばれるものとは異なり、β-カリオフィレン × ミルセン × オシメン × ピネンを中心とするクラシックなテルペン構造に加え、VSC(揮発性硫黄化合物)が強く関与することで形成される多層型アロマである。
特に Chem 系は、2020年代以降の研究で注目されている。
「テルペン+非テルペン性揮発成分(VSC)」の複合作用を最も強く示す代表格とみなされている。
この構造が、OG・Diesel など“ガス系全般”の起点として語られる理由につながる。
■ 主要テルペン構成(化学的ベース)
- β-カリオフィレン:スパイス × 樹脂の核。中盤〜後半の重さを形成。
- ミルセン:湿った土・ハーバル。重い沈静感の基盤。
- オシメン:鋭い刺激・溶剤感。ChemD に多い。
- リモネン:ガスの中に瞬間的な抜けを作る柑橘要素。
- α/β-ピネン:トップのシャープさ、刺激の“エッジ”を形成。
■ Chem 系を特徴づける VSC(揮発性硫黄化合物)
Chem91・ChemD・Chem4 すべてに共通する“刺すようなガス臭”は、
THCやテルペンだけでは説明できない。
近年の GC-MS × VSC 分析では、Chem 系の香りの核心に以下の成分が関与していると示唆されている:
- チオール類(Thiols):Skunk / Fuel の決定因子。
- チオエステル(Thioesters):溶剤・刺激臭の持続に寄与。
特に ChemD はこの領域の濃度が突出することが多く、
“ガスの頂点”と形容される理由がこの分析結果と一致する。
■ 香りの層構造(Layered Aroma Profile)
| 層 | 構成要素 | 特徴 |
|---|---|---|
| トップ | ピネン、オシメン、VSC初期揮発 | シャープ、溶剤、刺激的な立ち上がり |
| ミドル | カリオフィレン、リモネン | スパイス × 柑橘の中盤。ガスの“輪郭”が最も明確。 |
| ボトム | ミルセン、カリオフィレン、VSC残留 | 土・樹脂・深いガス。Chem 系の“本体”。 |
■ Chem91 / ChemD / Chem4 の香りの違い(総括)
- Chem91:ガス × 柑橘 × スパイス。最もバランス型。
- ChemD:刺激 × VSC最強。ガスの頂点クラス。
- Chem4:Earthy × Pine 寄りで OG 的構造に近い。
化学構造と体感(Cannabinoid × Terpene × VSC Interaction)
Chemdawg の体感はTHC値では説明できないことで知られており、
近年の分析では、THC × テルペン × VSCが複合的に作用する
“三相モデル(Three-Way Interaction)”が最も整合性の高い説明とされている。
■ 1. THC:強度のベースを形成
Chem の THC は 22〜27% と現代では標準高濃度だが、“体感強度”は数値以上と評価される。
これは、THC × VSC の感覚刺激が相乗し、主観的強度が増すためと考えられる。
■ 2. テルペン:体感の方向性を規定
- カリオフィレン → ボディ沈静
- ミルセン → 沈静の持続時間
- ピネン / オシメン → 刺激・覚醒の鋭さ
■ 3. VSC:Chem 系の“攻撃力”の核心
VSC は香りだけでなく、“立ち上がりの鋭さ”を強く感じさせる作用を持つとされる。
Chem 系で体感が強く感じられる理由の大部分がこの領域にある。
■ 三相モデルによる体感の整理
- Phase 1:刺激的覚醒(VSC × ピネン)
- Phase 2:集中・明瞭感(THC × ピネン)
- Phase 3:深い沈静(カリオフィレン × ミルセン)
この「覚醒 → 沈静」の二相性は Chem 系の象徴である。
効果と体験(Effects & User Experience)
| 項目 | Chem91 | ChemD | Chem4 |
|---|---|---|---|
| 初期の立ち上がり | 刺激 × 多幸のバランス型 | 最も鋭い。覚醒が急上昇 | 穏やか・重め |
| 精神作用 | 集中 × 明瞭感 | 強い高揚 → 緊張感も出やすい | 静的で落ち着きが主体 |
| 身体作用 | 中程度の沈静(動ける) | 最も重い沈静(座り込む系) | クラシックOG的な深沈静 |
| 用途 | 創作・外出・音楽 | 夜間・OFFタイム | 休息・静的作業 |
Chem91=バランス
ChemD=最刺激
Chem4=最静的
という分布が明確で、同じ “Chemdawg” でも別品種として扱うべきレベルで体感が分岐する。
栽培特性(Cultivation Characteristics)
Chem 系は OG・Diesel の源流にあたるクラシック強ストレッチ系統であり、
栽培挙動は現代スイート系と大きく異なる。
| 項目 | Chem91 | ChemD | Chem4 |
|---|---|---|---|
| ストレッチ | 2〜2.5倍 | 2.5〜3倍(最強) | 1.8〜2倍(安定) |
| 難易度 | 中〜やや高 | 最もセンシティブ | 扱いやすい |
| 収量 | 中〜やや高 | 中(品質優先) | 高(密度が出やすい) |
共通課題として、ストレッチ・湿度管理・肥料要求の高さが挙げられる。
初心者向けまとめ:どれを選べばいい?
■ 最速ナビ
- 香りのバランス → Chem91(初めてなら最適)
- 刺激・強度 → ChemD(上級者向け)
- 落ち着き・安定 → Chem4(OG寄り)
■ 初心者への注意点
- ChemD は非常に強い(刺激・沈静)
- ガス香が強いため好みが分かれる
- 夜向けフェノが多い
迷うならChem91 → Chem4 → ChemDの順が最も失敗しにくい。
考察ノート(Scientific Research Notes)
本章では、Chem 系(Chem91 / ChemD / Chem4)に関する
遺伝・化学・文化の三方向を研究者視点で補足し、
“確定情報/強い示唆/伝承” を切り分けて整理する。
Chem は歴史的資料が限られるため、科学と文化が混在しやすい領域である点を前提とする。
■ 1. 遺伝起源:未確定だが“源流扱い”される理由
Chem 91 の親株は 2025 年時点でも正式には同定されていない。
出自は Unknown × Unknown のままであり、複数の仮説が提示され続けている。
それにもかかわらず、Chem 系が OG / Diesel / GMO / Cookies に至るまで
“現代ストレイン文化の源流”として扱われる理由には、以下の整合的要素がある。
- ① ケモタイプ(香り・体感)が Diesel / OG と強く類似
- ② 90年代クローン流通の記録が一致(複数コミュニティで確認)
- ③ 初期 Diesel に Chem91 由来とする伝承が複数存在
ただし、
・「OG は ChemD 由来」
・「Diesel は Chem91 の直系」
といった語りは文化的伝承の比重が大きく、
現状の DNA 情報だけで断定できる段階にはない。
“可能性は高いが確定ではない”という位置づけが最も正確である。
■ 2. 化学構造:VSC(揮発性硫黄化合物)が鍵となる理由
2020 年以降、複数の研究で
「大麻の香りはテルペンだけでは説明できない」
という知見が強化されており、Gas / Skunk / Diesel 系の香りには
非テルペン性揮発成分(VSC)が明確に関与することが示唆されている。
Chem 系では、この VSC が特に顕著であるという報告が多く、
以下のような化合物が特徴的とされる:
- チオール類(Skunky Gas)
- チオエステル類(Solvent / Fuel)
これらは“香りの個性”への寄与は強く支持される一方、
“体感強度を直接増幅する”という点については
現段階では強い示唆レベルであり、確定ではない。
しかし、Chem 系の体感が THC 値以上に強く感じられやすいという現象とは整合的である。
■ 3. 三相モデル(THC × Terpene × VSC)は「現時点で最も説明力が高い」
Chem 系の体感解析に用いる
THC × Terpene × VSC の三相モデルは、
研究者の間で有効性が高い枠組みとして扱われているが、
まだ完全に確立された“公式理論”ではない。
- THC:強度の主要要素(確立)
- テルペン:方向性(覚醒 / 沈静)の統制(広く支持)
- VSC:ガス・刺激の核心(複数研究が示唆)
三者が時間的に作用することで生まれる
「覚醒 → 沈静」二相性は、Chem 系全体とよく一致する。
現時点では、“最も整合性が高い説明モデル”という立ち位置が妥当である。
■ 4. 文化史:Chem が「東西をつないだ株」とされる理由
Chem → Diesel(東海岸)
Chem → OG(西海岸)
という流れは文化的には広く語られているが、完全にDNAで証明されているわけではない。
ただし、以下の要素が揃うため整合性は高い:
- ケモタイプ(ガス・刺激)が一致
- 当時のクローン流通の地理情報と合致
- コミュニティ伝承の複数ラインが一致
総合的に見ると、
“Chem が東(Diesel)と西(OG)の両方に影響した可能性は高い”
というのが現代の研究者の一般的な評価となる。
■ 5. Chem 系が科学的に特異な理由
- 親株が不明なのに文化的影響が極めて大きい
- VSC × 土 × ガス × 溶剤という複合アロマを初期に確立
- THCが突出していないのに“強烈”と評価されやすい
- Diesel / OG / GMO / Cookies の遺伝骨格と整合
- クラシック系(ガス)と現代系(甘香)の橋渡し役
Chem 系は、
「遺伝は謎なのに、文化と化学の中心にいる」
という特異点を持つため、研究対象としての価値が非常に高い。
■ 6. 要点まとめ(研究的見解)
- VSC 研究の進展により、Chem の“ガスの正体”が明確化されつつある。
- 第四世代ハイブリッド(RS11 / PM / Zoap)が Chem 的要素を再統合。
- Chem 系は歴史・化学・文化の三軸すべてで“基準株”として再評価が進む。
総合まとめ(Final Summary)
Chemdawg(Chem 系)は、現代カンナビスを理解するうえで避けて通れない
“歴史 × 科学 × 文化” の三軸を支える基幹株である。
Chem91・ChemD・Chem4 に分岐する三ラインはそれぞれ独立した個性を持ちながら、
すべてに共通して以下の要素を備えている。
- ① 未解明の遺伝起源なのに文化史の中心にいる
- ② VSC を含む複合ガス香という強烈なアロマ
- ③ THC × Terpene × VSC の三相構造で説明される二相性体験
- ④ Diesel(NY)と OG(CA)の両文化をつなぐ位置づけ
- ⑤ 90年代〜2020年代を貫通する“ガス文化の骨格”
Chem 系は甘香主流の時代を迎えた後も、
“ガス × 土 × 硫黄” というクラシック要素が再評価され、
第四世代ハイブリッド開発で再び中心的役割を担い始めている。
現代ストレインを理解するうえで、Chem は最短ルートのひとつである。
最後に(Closing Thoughts)
Chem 91(Chemdog 91)は、
「起源が謎のまま世界を変えた遺伝子」
というきわめて珍しい立ち位置にある。
その曖昧さ・科学性・文化的逸話が複雑に絡み合い、
30年以上たった現在も研究・再評価・語り継ぎが続いている。
本稿が Chem 系をより深く理解する手がかりとなれば幸いである。
今後、Diesel・OG・GMO・Cookies など
派生ラインの詳細解析記事もしていきたいと思います! お楽しみに。
注意喚起(日本国内向けのご案内)
本記事で解説している Chem91・ChemD・Chem4 を含むカンナビス品種に関する情報は、学術的・歴史的・文化的・化学的な解説を目的としたものであり、日本国内での栽培・所持・使用をいかなる形でも推奨・助長するものではありません。
日本では、乾燥大麻・樹脂・種子を含む「大麻取締法」で規制されており、所持・栽培・譲渡・輸入・使用等はいずれも法律で厳しく禁止されています。
本記事は海外で公表されているデータや科学研究を読み解くための“教育・研究目的のコンテンツ”であり、違法行為を示唆する意図は一切ありません。
また、本記事内で紹介している化学成分(THC・テルペン・VSCなど)は「海外における研究データ」であり、医療的効果や効能を保証するものではありません。
体感・効果に関する記述は海外レビューや科学論文に基づく一般的報告をまとめたもので、個人差が大きく、日本の医療アドバイスには該当しません。
カンナビスに関する情報の取り扱いは、必ず最新の法令および各国の規制を確認し、正確な情報に基づいた判断を行ってください。
本記事はあくまで研究・教育・文化史の理解を目的とした解説です。